今日から繋げる古代風景

日々の出来事を無理やり歴史に紐付ける人

ラビットホールから考える「界隈曲」や「無色透明祭」からみるバズらないというの流行~教会音楽を引き合いに~

 

ラビットホールの二次PVと転載

 

 

 

 かつてブログで紹介した「ラビットホール」の二次PV(Pure Pure)が流行っている。

(紹介したといっても、このサイトのアクセス数考えると再生数に何一つ貢献などしていないのだけれど)とても嬉しい。

centrifugal-landscape.hatenablog.com

 

 と、同時に三次創作用の素材も出されたことで、色んなキャラが手錠ダンスを踊ってる姿を見る。かわいい。

 

 一方で、Youtubeで「ラビットホール」と検索してみるとどうなるか。

 目につくのはPure Pureの韓国語や英語字幕の動画、または長尺や(ショート動画に対して)画面比率を変更した動画が投稿より先に上がってくる。悪質な転載と言わざるを得ないものあるし、再生回数もこちらのほうが多かったりするPure Pureの作者も改めて3月29日に改めてガイドラインを設定した。

 

channelcast.fanbox.cc

 

 ネットでほぼそのまま転載されたものが再生数を稼ぐことはよくみる現象だが、世界規模で流行っているというニュースが報道されながら、大手サイトで堂々と無断転載が乗っているのは、ネットは世界に開かれているからといって正義の場ではないということを考えさせる。

 

 更に、Pure PureはそのセクシーさからYoutube運営に規制され、全年齢版を上げ直したり、それもまた色々あったりという話もある。もはや誰がなんのために規制をしているか分からないなどと皮肉ることもできるし、むしろネットとは何かを考察する良い実例だったりもする。

 

 それでも、ミュージシャンがSNSで作品をPRしたり盛んにコメントを残すのは、バズる力の凄さを知っているからだろう。それはプロだけでなく、無名のアマチュアがきっかけ1つで世間に評価される舞台へ登りあがる面白さもある。

 

 

 と、前振りが長くなったけど、本題へ行きたい。

 

 

拡散性を排する「界隈曲たち」

ざっくり説明

 SNSやメディアへ積極的で繰り返される曲たちが、POPのメインストリートなのだとしたら、界隈曲の在り方は通常のチャート曲たちとは真逆だ

 

 界隈曲とはなんなのか。

 曲だけをみると、主にボカロないしネット音楽の一ジャンルで、エレクトリカルでリズミカルな曲調に洒落怖やフリーのホラゲーみたく、どこか不気味さのある独特な文学調の歌詞を特徴とする……みたいな説明になる。

 

 しかしこのジャンルの独自性は、その排他性にある

 即ち、拡散性をあえて避けるべく、作者の名前や動画のタイトル、説明文をそぎ落とというスタイルにある。名前が空白なこともあり、余程伸びて二次創作も盛んな楽曲でもないと、偶然サジェストで目にすることすらない。

 

 詳細は私よりも、よく聞いてる方の説明のほうがわかりやすいだろう。

 

note.com

 

 また、界隈曲のことは知らなかったけれど、どこか薄暗いボカロ曲を聴いていたら、実はこの系譜にあったというのも存在はするだろう。匿名性はないけれど、青栗鼠の「ロータスイーター」Azariの「shadow shadow」などは例にあげやすい。

 

 洋楽の「bad guy」やCreepy Nutsの「bling-bang-bang-born 」など、ダウナー系で不穏さを孕むコードは日本より海外で流行っているそうで、実際界隈曲のコメントも日本語以外のものが多い。

 

 拡散しないことを強いる文化

 この界隈曲がなぜ拡散や作曲者名を伏せるのかは、上記サイトを追えば分かるが、ともかく原点はなんであれ、このジャンルには下手な拡散をしないという根深い信条が刻まれている。

 

 そしてそれは、「そういうジャンルだから、守る」というものから、「守ることで生まれるものが、このジャンルでは重要である」という逆転が起きている。

 「日本で剣術が殺人の技だけでは駄目だから身心を鍛える」といった発展をする中で、「鍛えられた身心こそ剣術が極みに達するために必要だ」という変化に近いといえば、分かりやすいだろうか。

 

 もう少し深堀りしよう。

 

 この引きこもり性は、ネットの匿名性とアングラ性の性質をより際立たせていることで成立している。だが内部でジャンルが、系統を意識ながら作品が生み出され続けている様子は、単にネットの特性だからというには厳かすぎもする。知る人ぞ知る名店、秘密会合のごとくだ。

 

 この隠蔽性はどこから来るのか?

 

 より歴史を振り返り、隠蔽された作品ジャンルの類似例を探して、推測しよう。

 例えば、かつては貴族や神前に披露するのみで一般人がみることのできなった、能といった伝統文化。

 あるいは宮廷画家や音楽家など、貴族のために描かれた、風俗画など生まれる以前の作品。

 そして音楽でいえば、キリスト教の教会音楽があたる。

 

キリスト教の教会音楽との比較

 

 キリスト音楽というものは、神にささげる讃美歌が起源とされる。それは中世のキリスト教ですらそうで、音楽は好き勝手に歌うものでなく、神へ捧げるものとして発展していった。そういった宗教性の中で、特に教会内でのみ歌われる音楽を、用語的には「教会音楽」という。教会で音楽を奏でることで、信者たちは神の信条と自信を一体化する体験を味わえた。

 

 そして教会音楽において、楽曲は神秘であり、不用意に外へ持ちだすべきものではなかった。音楽史に詳しい方には違うと言われるかもだが、ここで歴史を語るとコラム一個分できてしまうので割愛している。西洋音楽史やったら1回目で教わるから、気になる人は解説講座でも見て欲しい。

 

 秘匿性に関するエピソードといえば、幼少期に父親へ演奏旅行をさせられていたモーツァルトが、持ち出し厳禁な教会の曲を一回聞いただけで外で再現して大騒ぎとなった逸話があったりする。

 

 ともかく、キリスト教音楽はその宗教性による秘匿の中で、独自の発展を遂げた。一方で教会音楽ないし宗教音楽と比較されるのが、世俗音楽である。

 

 教会音楽は信者のための音楽である。そのため、音楽は厳かで、感動するものが喜ばれる。だから典型的な様式というものが確立されやすかった。

 

 反対に、世俗音楽はより流動的だ。流行や他文化の要素を取り入れ、アンチ教会ともいうべきだろうか、誤解を恐れずにいえば「軽薄性」が大きな特徴だった。耳に残りやすいモノ、刺激的なもの、サブカルとして消費しやすいものなど……、そういった中で、今でこそ古典といわれるが「オペラ」といったものが誕生していく。

 

 界隈曲もまた、この教会音楽の体をなしていると、私は思う。即ち、拡散性を捨てることで内部の様式を維持し、このジャンルが好きな人々を守っている。そこから生まれる「厳かさ」の喜びを、彼らは獲得しているのだ。とも言える。

 

無色透明祭は秘匿かチャンスか

 

ネットの匿名性を活かしたボカロ音楽活動で、抜くことができないのは「無色透明祭」だろう。

名前を伏せられ、動画内も白背景にシンプルなフォントの文字しか入れられないという、徹底的に伏せられたこのコンテストは2022年から開催された。

 

site.nicovideo.jp

originalnews.nico

 

視聴者は話題性や知名度関係なく純粋に「音楽」を楽しめ、いままで聴いてこなかったアーティストやジャンルに出会える機会となりました。
 また、ボカロPにとっても、無名でもたくさんの視聴者に聴いてもらえるチャンスになったのではないでしょうか?

 

ニコニコで行われたこの企画は、応募作が一回目の段階で数千を超えていた。自主的に曲を聴くまでどんな曲調なのかすら予測できない。

 

一方で、曲調からこれがあの有名Pのものだと考察されると、一気に再生数が伸びたりもした。これは、企画の目的から外れている例外でもあるようで、逆に有名Pであっても、匿名とされている以上大きくバズりすぎることはない。そしてもしバズっていたら その曲を聴いていたであろう時間を、視聴者は他の匿名の曲に向けることができる。全体として、企画応募作の再生数の分配に成功しているといえる。

 

 この辺は界隈曲とは真逆の目的だ。つまり、ジャンルを守るために拡散されぬよう隠蔽する界隈曲に対して、無職透明祭は、誰もが有名になるチャンスを得るために、有名者すら伏せる匿名性を利用する。

 

 勿論、それは決して無名の作家が劣っているというわけではなく、初投稿にして素晴らしい楽曲も多い。古事記風土記にはよく、「詠み人知らず」の詩が出てくるが、有名でなくとも詩の美しさそれだけで記録に残すべきと評価するのは、何も令和だけではない。

 

 それは、視聴者に流行という名の、「これは素晴らしいと皆が評価している」という事前知識がなくなったことで、一つ一つの出会いにときめくことができる。

 Amazonの製品レビューやグルメ店の星の数は悪品を掴まないために重要かもしれないが、ただ何もコストを支払わず曲を聴く楽しみとして、知らないことを楽しむというジャンルが存在するのだ。

 

 そして令和の企画は、ジャケ買いというかつての冒険すら過去のものにできてしまう。ネットという匿名性のシステムがそれを支えてくれているからだ。

 

 

まとめ

 今回は、あえて中世あたりの歴史の話を参考に、秘匿性について軽く書いたけれど、勿論他の魅力だってあるだろう。

 バズるとは、流行とは何なのかを研究してる方は多いし、界隈曲に詳しい方もいっぱいいるけど、この2つや匿名性を重ね合わせながら語っている人はあまりいないと思ったので、書いてみた。

 

 4月はテト15周年に、ポケミクの続きのほか、プロセカと東方がコラボなど、ネットへ新たな流行への火種が生まれる。

それが日本の小さな界隈を賑わわせるだけなのか、世界中のイヤホンから流れるのかは分からない。

 

けれど、流行るかどうかはさておいて、自分の耳でまずは聞いて、目で映像を味わって、そうして自分自身の感想を持てるようにしておきたいなと、ちょっとふんわりとした感じの言葉で締めることにした。

 

参考文献やサイトなどは、後日追加予定です。

 

 

「おまけ」

テトの周年企画で色んな新曲やアレンジが上がってて楽しいここ最近。このメドレーPVが最近のお気に入り。

 

https://x.com/karimei_0415/status/1774452801340690701https://x.com/karimei_0415/status/1774452801340690701