今日紹介するのはこちらの新曲。
二週間前に投稿されて既に100万再生されたVtuberのデュオソングだ。
【HIMEHINA 愛包ダンスホール】
かわいい。
特段気に入ったわけではないが3時間ほどリピート再生していると、曲に対する意識も深まってきた。
チャイナ服VtuberのデュオがダンスするMVとジョン・レノンがぱいぱいされる歌詞にサイケデリックしていたが、よく考えると奇妙な組み合わせだ。
曲ならだれでもきけるが、その歌詞やMVを一つ一つ理解している人間はどれくらいいるのだろうか。
というわけで、この曲の要素を時代によってバラバラにしてみる。
歌詞と時代
紀元前
休戦しようぜ 涙腺が源泉温泉
なに言ってんだ?(自問自答)
のガンダーラと言う言葉が日本で知られるようになったのは、1978-79年の大ヒットドラマ「西遊記」(1978-79)の主題歌だ。
ガンダーラとは現在のパキスタン北西部の地方にあった古代王国名。
ガンダーラ王国は、ペルセポリスに残るダレイオス1世の碑文から紀元前6世紀には存在していたとされる。
アレクサンドロスがギリシア文化(ヘレニズム)をこの地にもたらしたことで、シルクロードの重要な交通路として栄える。
特に1~3世紀には仏教とヘレニズムが融合したガンダーラ美術が生まれた最盛期となるも、11世紀にガズナ朝のスルタンにより征服され、名前とともに衰退した。有名なのは古都バーミヤン。
西遊記の主題歌としては、ガンダーラを「インドの理想郷」と再定義し、愛を語るオリエンタル調な曲である。
中華娘風のキャラにガンダーラを語らせることで出る東洋の神秘感も出てくる。中華レストランのバーミヤンも、東洋と西洋架け橋であった古都バーミヤンのように、人と人を結びつける場所にしたいというのが店名の由来らしい。
「バーミヤン」は中華のお店なのに、なぜ名前はアフガニスタンなのか(2/2)|Jタウンネット
これは深読みだが、「自問自答」という括弧書きも、輪廻とは何かを自問自答しているという仏教的な二重の意味にかけているとも取れる。
1920年代:ボレロ
蕩けった少年 甘酸っぱい感情
ダンス曲のボレロといえば、スペイン起源またはキューバ起源といわれているダンス音楽「ボレロ」のことだろう。
日本なら「マンボ」というダンス用語が有名だが、これもボレロの流れを組んでいる。
カスタネットを叩き、ギターの成る中で一人ないし二人で踊るダンス。
元々19世紀(1840年代頃)には存在していたが、2拍子のダンスとしてメキシコへ広まり、1950年代にはラテンアメリカの音楽として組み込まれる。
マンボ自体は衰退したが、そこから派生した「ルンバ」「チャチャチャ」「サルサ」など、ダンス音楽の基盤となっている。
オワラナイ・ラブコール・ノ・ダンス・デ
1970年代:ジョン・レノン、イマジン
艶やかな脳内の脳裏のジョンレノンも愛包家
イマジンオールザピーポーの祭典
ジョン・レノン(1940-1980)は60年代ヒップホップを代表する世界的バンド、ビートルズのメンバーだ。
歌詞に登場するイマジン(71年発表)は71年に個人として発表したもので、後にオノ・ヨーコとの共作と認めるが、ともかく20世紀を代表する曲のランキングがあれば必ずトップ10にいるような人気曲。
イマジン・オールザ・ピーポー(想像してごらん、すべての人々が~)は、曲中で何度も繰り返されるフレーズである。
~の後には
living for today (今日を生きている)
living life in piece(平和の中で生きてる)、
sharing all the world(全世界を共有していると)
とつづく。聞いた方がはやいのでリンクを貼る。
1980年代:オエオエオエ
ほらオエオエオエオエよ
オエオエオエというリフレインは、ポップスでもよく聞くが、源流はメキシコ発祥の「Olé Olé Olé」といった応援メロディから来ている(と思われる)。
Olé(オレ) 自体はスペイン語の感嘆詞で、フラメンコや闘牛で聞いたことがあるだろう。
サッカーの応援歌としてスペイン語圏で流行し、1980年代頃にはメキシコワールドカップなどを通じてスペイン語圏以外にも広がり、「オエオエオエ」としてうたわれ始めた。
曲としては、1987年にTHE FANSの「Olé, Olé, Olé(THE NAME OF THE GAME)」が発売し世界的にヒット。各国でカバー曲され、日本では「WE ARE THE CHAMP ~THE NAME OF THE GAME ~」として発売される。
1980-90年代 ボディコン
ナイトクラブが「サタデーナイトフィーバー」から更に奇抜な方向へ発展する中、高級ブランドのボディコン・ワンレンの派手なドレスが台頭する。
MVのサビで踊られる、ハイヒールと銀のボディコン風ドレスはまさにその時代を再現しているのだろう。
丁度10代のころにジョン・レノンを聞いていた世代でもある。
2000~10年代:Wi-Fi
高まった感動の再会 集まった愛情のWi-Fi 持寄った常灯の人提灯
改めて書くまでもないが、現代最先端技術の「Wi-Fi」と江戸時代的な「人提灯」を並べるあたりセンスが光る。
Wi-Fiという技術は、1971年にハワイで実験的に利用された(アロハネット)がスタートとされる。
その後、ワイヤレス技術や規格が整うと、2000年代初頭から普及する。
スマホやノートPC、タブレットなどによりインターネット利用率が急激に増え、日本での利用率が8割を超えて落ち着くようになったのが2010年代である。
その他:ミートパイ、ミルフィーユ
話を付けくわえると、既にガンダーラやスペインの話をしたが、歌詞中に「熱いミートパイ」を登場させるのは、アメリカン要素だろう。
と思ったら「ミルフィーユ」を登場させたりと、意図的に歌詞を国際色豊かにしている。ジョン・レノンはイギリス出身、中華系はいわずもがな。
歌詞から時代を振り返る
今回はジョン・レノンという分かりやすい固有名詞があったから、記事もとっかかりが見つけやすかった。
一方でオノマトペだけで作った歌詞ですら、そのオノマトペの用法をたどれば歴史を感じることができる。
こんなことして、なにか意味あるのと言われたら、別にカラオケが歌いやすくなるわけでも、Vtuberへの理解が深まるわけでも、癒されるわけでもない(むしろ疲れる)。
だがもう一度再生を押したとき、そこに見えるのはただのネットに浮かんだアイドルソングでない。
蓮の花の水面下のように、時代との繋がりを曲の表現として昇華されていることを理解することで、より深い視点から動画を見れるのではないだろうか。
3時間聞き続けてる時点で、もう深みに達している気がしないでもないが。