トリチウムから考える古代の毒液循環
簡潔な導入をすると、トリチウムが話題なので、もし古代になんかやばそうな水溶物質を飲み込んだ問題が提示されたらどうだったか考える。
なんの意味があるんだと言われれば、例えば古代にタイムスリップした際に、同じくタイムスリップしてきた現代人と敵対する羽目になり、情報戦を強いられた際に役立つかもしれない。
そんなことあり得ないと思えるなら、貴方のタイムスリップはさぞかし幸運なものに違いない。時空間の干渉により、何が起こるか分からないのが時間旅行というものだ。
前提知識
もちろん、キュリー夫人の放射能とか、ルネサンスでの医学発展とかがなければ放射能汚染だの生物濃縮という議論にはならない。じゃあ何を古代的な視点で考えるかというと、血液の捉え方である。
西洋医学史では、ルネサンス期にアラビアからの知識、またハーヴィーなどが血液循環について研究し近代医学に至るまで、キリスト教的な背景から医療が学問として発達せず、2世紀ローマの学者ガレノスの理論を用い続けていた。
ヒポクラテス派が人体の液体について提唱し、アリストテレス、ガレノスが纏めたのが、「四体液説」というやつ
画像引用: 四体液説 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%9B%E4%BD%93%E6%B6%B2%E8%AA%AC
こんな画像を見せながら、「古代ギリシャだと、血液、粘液、黄色胆汁、黒胆汁の4液と熱・冷・湿・乾の4気体を元に人体を見ていた」の話をするのが大学でやる医学史1回目の授業である。外から取り込んだ液体が、体内で4つのどの液体になるかは気体の状態なり悪い液体だったかで決まる。ざっくり言えば、悪いものを取り込み体内で無毒化できないと黒胆汁となる。そういうときは嘔吐とか下痢、排尿などで体外に黒胆汁を出す。
考えられる治療法
さて、貴方が情報戦に負けて、なんかやばい毒液を摂取してしまったとしよう。
このとき、即時性の毒であれば口に指を突っ込み嘔吐するか、されるかだろう。ローマ皇帝のネロも、毒を盛られた際にアグリッピナにより毒を吐き出さそうとされた逸話から、毒はまず吐き出すことが有用とされるのはよく知られていたはずだ。
アグリッピナ本人が毒を盛っており、吐き出さすふりをしてトドメ毒入り羽毛で口を塞いだ逸話でもあるけど。
しかし、今回は元ネタに合わせて、即時性でなく遅延性の毒液だったとして深堀りしよう。先ほど書いた通り、ガレノスの四液体説によれば、悪い液が体内にある場合、基本的な治療法は、液を外に出す、これに尽きる。ということで運悪く医者にかかった場合、病床に寝かされてからは、嘔吐のほか、体内から水分を外に出すために、下痢や排尿を促進する方法がとられるだろう。
また上記画像では黒胆汁の横に、冷(cold)と乾(dry)とある。ガレノスによれば、黒胆汁が多いときはこの気体の性質が強くなっているため、反対に温かい物を取れば四液体のバランスが取れて健康な状態に向かうらしい。ということで、温かな食事や運動、入力などをさせられるかもしれない。
これでもよくならないと判断された場合、瀉血(しゃけつ)という治療がされるかもしれない。陽は血を斬ったり吸ったりして外に出すというアレだ。当然現代知識に照らし合わせると危険な方法だが、古代~中世の西洋知識に従う王道な治療なので致し方ない。あとは神に祈るのみだ。
文化ごとの治療
古代ギリシャに生まれたのなら、医神のいる神殿へ運ばれるだろう。アスクレピオスの医療神殿が多いかな。
中世キリスト社会に生まれたなら、人が病気となるのはアダムとイブ(罪を犯して完全な存在ではなくなった)によるとされる。そして、旧約聖書のヨブ記を示しながら、サタンによって皮膚病に罹りながら神への信仰を捨てなかったヨブを見習えと言われるかもしれない。
現代日本の場合、偏った情報をSNSやニュースから拾ってしまい、恐ろしい推察や陰謀論に巻き込まれてしまう。またこういった放射能や井戸毒、漠然と理解しにくいが不安を煽りやすい存在は、化学にしろ魔術にしろ人類の研究が進んでないものにしろ、政治運動や外交活動の扇動材料としてよく利用される。
結局助かるためには
遅延性の毒液を飲んでしまったと気付いたら、まずは飲んだ量とその物質が何なのかを記憶しておこう。そのまま専門家のもとへ行き、専門知識による検査と診断を得ることが必要だ。たとえ相手に未来の知識がなくとも、第三者による客観的な評価は大事である。
しかし、もし古代でトリチウムを摂取した場合、素直に「トリチウムという物質を摂取しました」というと混乱を生む。まず放射線と言う概念を説明するのも大変だ。そもそも放射線について語るなら、相応の知識を自分が知らなくては説明できない。
タイムスリップしていない今なら間に合うので、正しい知識をネットの有識者でも一般病院のブログでもなく、国や大手医療機関からの情報を、一つだけでなく複数確認することで、知識を覚えていこうね。という安易なまとめで締めくくることにする。