今日から繋げる古代風景

日々の出来事を無理やり歴史に紐付ける人

映画『プラットフォーム』の雑メモ

 

アマプラで最近追加されたので視聴したスペイン映画の『プラットフォーム』(原題El hoyo)。

最近追加の欄にあったので、事前情報ゼロでみたけれど、cubeにも似たシチュエーション・ホラーだとは思わなかった。

 

それで、内容自体は単なるグロテスク重視とかではなく、メッセージ性が強かったので(日本ブロガーの多くはキリストの宗教性が強いと言ってるが)、今回は宗教がらみのメモを残そうと思う。もしかするとスペイン語のレビューや解説記事に書いてあることばかりかもしれないけど…

 

ここからネタバレ注意です。

 

……

 

 

 

大方の考察者が言っている通り、階層になった地獄、様々な道具を持った住人、数字など、パーツを集めて浮かび上がるのは宗教なものである。

 

・同居人の名前

主人公と関わる人物は主に4人。日本語では表記ゆれもあるけれど、。名前の由来をまとめてるサイトがある。(読めないので、日本語訳かけた)

'El hoyo' (Netflix): ¿Qué significan los nombres de los personajes?(「The Hole」(ネットフリックス):キャラクターの名前はどういう意味ですか?) - SensaCine.com

主人公はゴレン(Goreng)。由来はナシゴレンとかの・・料理名にもあるマレー語のゴレン(揚げ)。

 最初に出合う老人はトリマガシ(Trimagasi)。マレー語で「ありがとう」「感謝際」

 

 元職員の名前はイモギリ(Imoguiri)。ジャカルタの王室墓地。ペットのラムセス2世はエジプトのファラオであり、キリスト教では出エジプト記モーセが海を割って逃げた時のファラオと言われることもある。史実と神話なので真実性はあんまり参考にはならない。

 

 神に厚い黒人バハラト(Baharat)。中東などでスパイスの混合物を指す。

謎の女性ミハル(Miharu)。

 

 一方で宗教色強いことを考えるならば、他のニュアンスも考えられる。なにしろ、主人公の持ち込んだ本「ドン・キホーテ」は中世騎士に憧れる老人の話だ。だから登場人物の名前にそのミーニングが含まれていてもおかしくない。

 

 

・ゴレン

名前を聖人に合わせるなら、龍退治や殉教を行った伝説の聖ジョージ。

無人島に一つだけ持ち込めるなら……みたいな話の中、持ち込んだのは「ドン・キホーテ」(の、厚み的におそらく前編)。スペインを代表する小説なので無難なチョイスであり、主人公が武器、道具といった合理性や防衛手段ではなく、心の充実を求めた存在だと強調する存在。あるいは役に立ちにくいという甘さの存在、一巻読むころには出れるだろうという安易な気持ち、これから起こるだろう、ドン・キホーテのような錯乱と最終的な安堵の象徴でもある。

最初に手にしたリンゴ(禁断の果実)は、口につけなかったが……という暗喩。

 

面接のときにはこれでもかと煙草を吸う。地獄のような穴に入る理由が「煙草をやめたい」だというが、言葉と態度が合っていない。好きな食べ物は悩んだ挙句、エスカルゴ。カタツムリは罪の詰まった存在、つまり罪人のシンボルとされているらしい。トリマガシは散々自分たちをカタツムリに例えていたのも、その比喩だろう。

 

・イモギリ

25年も職員として働いたが、癌に侵され、自ら穴に入った女性。穴にペットを持ち込んだのはあまりに内部の状況と乖離しすぎる楽観さだが、不治の病なら仕方ないかもしれない。

内部では人々の連携を求めるが、理想と現実がかみ合わず、ペットを殺され、最後には200階までと知らされていた階すら202階まであると知らされ、命を絶ってしまう。その後はトリマガシと共に幻影となって、主人公にささやく。トリマガシが現実主義な悪人なら、彼女は理想主義の善人だろう。

 

・バハラト

共にパンナコッタという聖杯を上に届けようと戦う聖職者バハラトは、聖杯探索の騎士ガラハッド。持ち物が「大繩」なので、明らかにいざとなれば脱出する気満々で穴にやってきている。聖職者のようなふるまいをするが、パンナコッタを守ることに没頭しすぎるほど使命感が陶酔しやすい。6階という上位層にいながら「黒人かよ」と5階の人間に悪口を言われ、下層でも黒人奴隷的な暴言はかれたり、老人、女性ともに、この世で迫害される人間の一人として黒人が採用されたのかなと思った。

食事がテーマの今作だが、最後の晩餐にて主人公からリンゴ(禁断の果実)を投げられて受け取っているあたり、楽園追放の暗喩があるのだろう。

 

・ミハル

ミハルは常に主人公より上の階から現れ、悪を裁き、(おそらく)最下層の子供にまで食事を運ぼうとする様子から、大天使ミカエルかもしれない。ただし作中で一番殺人を犯しているため、罪の重さも人一倍だが、地獄の中で子供を助けるために人を殺すという、この世の不条理さの象徴でもある。

 

・トリマガシ

様々な役割を持たせたキャラで、一つには絞り込めないちょっと分からない。第一章の説明役であり、「サムライ・マックス」を買ったが「サムライ・プラス」なる商品が出たことで怒り、放り投げたテレビで不法滞在者を殺し反省しない老人。自分より上下の存在を屑とみなすほど差別意識をもつ一方、主人公に感謝をする憎めなさも持つ。

この先ゴレンの脳内に存在し続け、時に悪魔のようにささやき、時に心に寄り添う妄想となって現れる。この後、3人の同居人と出会うことにあるから、それぞれが神曲の地獄、煉獄、天国の案内人を兼ね備えてるともとれる。

口癖の「明らかだ(Obvio)」はネトフリがネタにするほど主人公との間で繰り返される。

Todos los "obvio" en El Hoyo - YouTube

 

・パンナコッタを守る二人

様々な料理がある中で、途中で出会う偉い人(ブランハン)が「パンナコッタを上に届けよ」と命令する。

なぜ偉い身分の人が穴にいるのか、空腹で狂わずに「礼儀が大事だ」といえる精神性を保ててるのか。

そこは問うべきというより、むしろ「旅の途中で出会った賢人」のような印象だった。名前はインドネシア料理の赤玉ねぎと同じらしいが、アブラハムと掛けているのかもしれない。見た目はアジア系で、パンナコッタを死守するという話だけ聞けば、そこは東南アジアの隠喩が入ってるともいえるだろう。

実際、ミハルや最後に登場する子供はアジア系であり、貧困で苦しむ地域の代表でもある。

 

・主人公と部屋の数字

最初の部屋は48.その次は171、

次にイモギリが200階まであるといったにもかかわらず、着いたのは202階。

その次は6階、最下層は333階。

 

333×2人組で、獣の数字である666人が何かしら背徳を以てこの穴にいる、というのは大体の考察者が言っている。(でも333階には子供が一人しかいなかったから、実際は665人じゃないか? などとは思いもする。)

大体数字系は、聖書の章を照らし合わせるものだし、実際作中でも聖書の一文が登場するので、探せば出てくるのかもしれない。

あるいは、例えば主人公のついた6階は、七つの大罪のうち6番目の「暴食」を表しているとも取れる。一方で上の男女カップルは5階にいるわけで、途中の喘ぎ声のシーンも鑑みて5番目の色欲を表しているともいえる。

 

・その他の住人

一方、下層に降りる中で様々な住人と出会う。

最初に交渉失敗して殴打されるアジア系の女性。

プールに仲良く2人入っている男2人組。ベッドから飛び降りて食べ物を拾う老婆。

前述の偉い立場の人。

下半身だけ残った太めの人、煙草と共に燃え尽きた人、様々な死体の繰り返される後半は、地獄の底のようだが、172や201でここが地獄だと思っていたのに更に底があり、

部屋割はランダムなので、主人公がそうなってたかもしれないという恐怖もある。

 

・回想

時々、主人公がここにくるまでの面接の階層と、映画序盤と中盤あたりにどこかしらのレストランでパンナコッタに対して何かを叫ぶ料理長のシーンがでてくる。

そこで、主人公の穴に来た目的の詳細や、シェフが何を言っているのかの詳細は分からない。けれど、パンナコッタが瓜二つだったりするので、おそらくは0層の生産者なのだろうと理解できる。

シェフ長みたいな人は、ささいなゴミで部下を叱る。元管理人は全200階に食べ物が行き渡ると信じてる。

主人公も入るまで、もっとまともな場所だと思っている。

穴の内部ではそんなミスが些細なほど、重篤な状況だというのに。だからこそ、途中で「上にメッセージを送る」という言葉が、「本当に上は穴の恐ろしい状態に気づいてない」という説得力につながる。

 

・結末

主人公は神曲のダンテのように、三人の同行者や、ミハル、ブランハンといった助けや助言を受けて、様々な層を旅し、最後に、0階へ至るために、自ら最下層へと堕ちる。

最下層333階では一番純粋無力な子供が、希望であるパンナコッタを差し出さなければ死ぬという状況である。

そこで、元の目的を捨て、子供を活かすことを望んだ主人公と、一度は子供を見て見ぬりしてまでパンナコッタを守ろうとしたバハラト。

そして、334階層ともいうべき一番下の、どこまでも何もない空間につく。

彼はそこで子供と共に上層へ行こうとしたが、トリマガシの亡霊が語り掛ける。

恐らくここで、自分は殺人も犯しこの地獄にいるべき存在と納得し、だから少女のみを上層へ送って満足気な表情を浮かべたのだろう。

 

 

などと、思ったことをズラズラとまとまりなく書いた。この先視聴する人はどんどん増えると思うけれど、その人の知識量だったり、なんなら海外の人や宗教で味方がガラリと変わるホラー作品じゃないだろうか。