「異人が井戸に毒を入れた」というデマ。ローマ大火に、ペストでのユダヤ人、太平洋戦争中の日系アメリカ人に震災の外国人など、形を変えながら地味に2000年以上の歴史がある。
— 永住 空間 (@Eiju_Space) 2020年4月29日
ある意味で伝統なので、デマと注意する人が増えても、絶えることはないかもしれない。
(#日曜美術館 を見ながら)
「異人が井戸に毒を入れた」というデマ。災害時のデマというと、ローマ大火に、ペストでのユダヤ人、太平洋戦争中の日系アメリカ人に震災の外国人など、形を変えながら地味に2000年以上の歴史がある。とは言っても、「井戸に毒を入れる」はどのくらい信憑性があるのか。ちょっと歴史を振り返り、真実かどうか不明なものは逸話を含めて並べてみる。
・紀元前 インド
サンスクリット語の詩に 「Jalm visravayet sarmavamavisravyam cadusayet (井戸には毒が流され、汚された)」という詩行。
紀元前3世紀
地中海のティルスでアレキサンダー大王が、ペストで死亡した兵士たちの着衣を飲水用泉に投げ入れ、敵兵数千名が感染して死亡。
紀元前4-2世紀
・インドのマウリヤ朝建国の祖であるカウティリヤ。彼の著書「実理論」では暗殺としての毒の使用法が記載されている。実際に反逆者を毒殺したらしい。井戸についてあるかは、原文を所持してないので不明。
・14世紀 ヨーロッパ
ペスト大流行の際に、ユダヤ人迫害が発生。
「ユダヤ人が井戸に毒を投げ込んだ」
ので死亡した、というデマである。これはペストに対するスケープゴートとされ、以後、反ユダヤ主義として、ユダヤ人には血の中傷といった様々なデマが付きまとうことに。世界でも有名な井戸デマ。
・15世紀 ワラキア
「串刺し公」「吸血鬼の元ネタ」などで有名なヴラドⅢ世。オスマン軍の進撃を抑え入れるため、ドナウ川両岸の井戸に毒を入れる。
反対にイスラム教では、コーランにより戦闘中でも水源に毒を入れることは禁止されていた。
ドイツ軍はアルベリヒ作戦の一環としてフランスの井戸に毒を入れたという。イギリスのプロパガンダという話もある。
ソビエト連邦のフィンランド侵攻、通称「冬戦争」。フィンランド側は毒として動物の死骸や糞を井戸に入れた。
・1928年
日本で関東大震災の直後「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」というデマ。
・1953年
ソビエト連邦でスターリンが反ユダヤ主義としてユダヤ人などを同様のデマ、ねつ造の元で逮捕、有罪にした。英語ではDocto's plot (医師団陰謀事件)とされる。
・1995年
ボスニアにて、民族問題の中でセルビア人が井戸に毒を入れたと告発される。「スレブレニツァの虐殺」のジェノサイドでも行われた。
・1980~1990年代
アラブの民族主義者やイスラム原理主義者のプロパガンダで、再びユダヤ人のデマが登場。
・2004年
イスラエルで入植者が腐った鶏などを貯水池に入れているとNGOが非難。アラブの内紛が背景にあるとされる。
・2011年
東日本大震災により「朝鮮人が~」という同様のデマ。SNSやチェーンメールでの情報拡散が見られた。
・2016年
ブリュッセルの欧州議会で、パレスチナ自治政府議長兼PLO議長が、ラビ(ユダヤ教指導者)が井戸に毒を入れている」と扇動。虚偽のメディア報道とされ、EUが否定。
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というわけで、「井戸に毒」デマは海外では特に対ユダヤ系でテンプレであった。また、実際に井戸に毒を入れる作戦は、軍として大規模に行われたっぽいので、デマの示す多くて数十人の作戦とは異なるといって良い。あと、今回は日本語と英語使って調べたけれど、他言語でみればその言語圏にある反民族が出るかも知れない。
それでも何故デマが言われ続けるのかというと、そもそも「毒」とデマは相性が良いからではと思う。科学や薬学に精通しない人からみれば、毒は未知であるがゆえに曖昧な概念で、様々な想像により効果や致死量があるのだと思えてしまう。無色透明で、口に含んだ直後に嘔吐、そのまま死亡なんてパターンは現代の推理ドラマのテンプレだけど、その成分が何かは説明されないし。
勿論、感染症の研究が発展してなかった時代は、毒と感染症を一緒に考えていたとも考えられる。移住者の持ち込んだ疫病で大勢の死亡するのは、赤壁の戦いに参加した医師である張機(ちょうき)の「傷寒論」や、大航海時代のヨーロッパみたいな例もある。今だって感染者が他の土地に移動したことで、感染が増えたりもするので、毒を根拠に異人を排他する防衛本能が存在するのかもしれない。
なので時代に関係なく、ヒトは毒と言われれば、よく分からないけれど、何かヒトを殺すことに関しては万能の効果があるという偏見を生来持っているのではないか。
あと井戸に関しても、日本のテレビ番組がやりなげしたせいで井戸を巡って対立が起きたり、死体処理場になってるので、生活の源であると同時に、穴という深淵に危険があるかもという恐怖が混ざるのかも、と浅はかに考えてみた。
参考サイト
後日、まとめて記載。